人との出会いが起業家を成長させる

キープレイヤーズ代表の高野さん

株式会社キープレイヤーズ
CEO/代表取締役 高野 秀敏(たかの ひでとし)

1976生まれ。東北大学経済学部を卒業し、株式会社インテリジェンス入社。
人材紹介事業の立ち上げに携わる。転職サポート実績では、通算最多転職サポート実績ナンバー1を記録。
マネージャー、人事部を経て、独立。2005年1月、株式会社キープレイヤーズを設立。
ベンチャーやスタートアップを専門とした人材マッチングサービスを提供している。

起業家に欠かせないもの、それは人との出会い。
仙台出身の起業家でベンチャーやスタートアップ専門の人材マッチングサービスを提供するキープレイヤーズ代表の高野さんはそう話します。
仙台で生まれ育ち、どのような変遷のなかで起業していったのか。高野さんの足跡を取材しました。

仙台の起業家たちにとっての“先輩経営者”である高野さんの起業ストーリーには、自己成長につながるヒントがたくさんあると思いますよ。

優秀な人たちとの出会いで変わった

――起業への想いが芽生えたきっかけを聞かせてください。

さかのぼって考えると、おじいさんや父親の影響が大きかったんじゃないかな。そう思います。
おじいさんは保護司、父親はJA仙台の代表理事を務めていて、よく人から相談をもちかけられていました。そんな姿を見て、仕事とは人を支援したりサポートすること。幼少期にこんな“刷り込み”があったんです。
それで、わりと小さい時から『自分も将来は人を支援する仕事をするんだ』といった想いが漠然とありました。それがキープレイヤーズ、つまりベンチャーやスタートアップとそこで働きたいと思っている人をマッチングする会社を起業したおおもとだと思います。

――漠然とした想いが実際に起業しようというアクションになっていったのはいつですか。

具体的に意識しだしたのは学生時代ですね。東北大学在学中に塾を手伝ったり、インターネットの代理事業をやったり。自分で仕組みをつくって仕事することがすごくおもしろかったんです。
それで、会社勤めよりも、なにか自分で事業を興したいな、宮仕えよりも起業するほうが自分に合ってるなと。

――でも東北大学の学生なら、宮城県庁や仙台市の職員といった公務員になるケースや、民間に進む場合も地元や東京の大企業に就職するのがフツーだったんじゃないですか。

あと政府系の金融機関とかね。実際、友だちの多くはそうした会社や公的機関に進みました。
時代もITバブルが起きる直前で、起業という選択肢を考える学生は、いまよりうんと少なかったと思いますね。

――すぐに起業したんですか?

そのつもりだったんですけど、ある会社でインターンとして働くうちに、いったん、どこかの会社に務めて、そこで仕事のやり方を学んだ方がいいな、と考えなおしました。

インターン先はリクルートさんでした。別に当時から人材関連のビジネスに興味があったわけじゃなくて、交通費を支給してくれて、ちゃんと報酬ももらえるのがすごく魅力的だったんです(笑)。当時、そんな好条件のインターンができる社はあまりなかったので。

行ってみると、すごく大きな刺激を受けましたね。とにかくアグレッシブな人たちばかり。すごく勉強になりました。一方で、いまの自分のままでは起業したら成功できそうもないなということもわかって(笑)、自分を鍛えてくれそうな会社で修業するつもりで働こうと思ったんです。

「インテリジェンス」との出会いという転機

――インターン先のリクルートにそのまま就職することは考えなかったんですか。

リクルートさんがイヤだったということではないですし、いま考えたらそれでもよかったのかもしれないと思います(笑)。ですけど、一緒にインターンしていた学生たちのあいだで「これから伸びそうな会社、おもしろそうな会社はどこ?」という話しをすることがあったんですけど、そんな時、よくアクセンチュア(当時の社名はアンダーセンコンサルティング)とインテリジェンス(現・パーソルキャリア)の名前が必ずと言っていいほどあがっていました。

どちらも初めて社名を聞く会社だったんですけど、逆に、だからこそ「なんだ、それは。知らなかったぞ」と刺激を受けたんですね。仙台で学生をしているとだれでも知っているような有名企業の名前しか耳に入ってきません。でも、どうもそうじゃないんだと。聞いたこともない会社だけど、これからは伸びるのはこういう会社なんだと。そんな気づきと学びがありました。

ただ、インテリジェンスの方が小さくて、こっち方がいろんな経験をできると思いました。それで、上野の公衆電話からインテリジェンスに電話したんです。

――なんで上野の公衆電話だったんですか。

あんまり大きな声では言えないですけど、当時、上野公園の周辺では怪しい人たちが偽造した違法なテレホンカードを安く売ってたんですよ。上野の公衆電話から電話したのは、とにかく貧乏学生だったんで、1円でも安くすませたかった。それだけでした(笑)。

とにかく、採用部署の電話番号なんて知りませんでしたから、インテリジェンスの代表番号に電話して、出た人に「そちらの会社に興味があるから一度会ってほしい」とお願いしました。インテリジェンスの採用情報は一切知らなくて、そもそも採用しているかどうかも知りませんでした。

でも、ヘンだけどおもしろいヤツだと思ってくれたのか、その日のうちにインテリジェンスの人と会うことになったんです。それをきっかけに何度か訪問しているうち、「ウチで働かないか」みたいな話になって。…いま考えるとありえないというか、懐の深い会社ですよね(笑)。

想いが確信に変わった瞬間

――地元、仙台で経験を積もうとは考えなかったんですか。

いまは仙台にも大手からベンチャーまでいろんな企業がありますけど、当時は仙台にベンチャー企業はほとんどなかった。それで、必然的に東京へ出てくる流れになりました。
最近、地元資本のイキのいいベンチャー企業もあるし、大手でもベンチャー精神がある会社が仙台にもあるので、いま学生だったら仙台で経験を積むこともアリかもしれませんね。
ネット環境さえあれば場所を問わずに働けるし、東京以外の地方発ベンチャーも増えてますしね。

――インテリジェンスに入社した後、起業するまでの経緯を聞かせてください。

入社した頃は100人程度の規模でした。そこから数年で1,000人の会社に急成長を遂げ、会社が大きくなっていく過程を体験できたいのは大きな財産になりました。それと、サイバーエージェントを起業した藤田さんがよく知られていますけど、起業マインドが強い社員が多く、実際にどんどん新しい会社をつくる姿を見て刺激を受けましたね。

起業したいという願望が、するという確信の変わったのは、管理部門で人事に携わっていたとき。会社の規模が大きくなるにつれ、ベンチャーやスタートアップ段階の企業へのサポートまで、十分に手がまわらなくなっていると感じるようになりました。

だからこそ、ここには大きなチャンスとニーズがあるんじゃないかと。そうしたビジネスとしての可能性や意義を見出すとともに、幼少期から「人助けをしたい」という想いがむすびつき、ベンチャーやスタートアップの成長に貢献する人材マッチングで起業するんだ、という確信に変わりました。

いまは東北大学はもちろん、東大や京大を卒業した学生でも、大手企業ではなくベンチャーやスタートアップを就職先に選ぶのは、それほど珍しいことではなくなりました。でも当時のベンチャーの状況はというと、知名度がないことがネックになって満足な採用はできないし、採用に投資しようとしても資金調達がすごく難しかった。でも、そこをサポートしようという会社もなかったんです。それで、誰もやらないのなら自分がやろうと。こんな想いで2005年に起業しました。

これからもベンチャーやスタートアップ企業を人材面でサポートし続けることで新産業を創造する企業を支援し、日本の経済を、社会をよりよくすることに貢献できればいいなと思っています。

「共創」できる経営者が伸びる

――高野さんはこれまで多くの企業を支援していますけど、成長するベンチャーやスタートアップには、どんなことが共通していますか。

どんな市場で起業するのかということもありますけど、どんな事業をしている会社であれ経営者の「巻き込み力」の強さがベンチャーやスタートアップが成長するためのエンジンなんじゃないかなと思います。人材やお金、取引先、投資家などを集められる力や魅力がある経営者なら、時間がかかっても会社を成長軌道に乗せられると思います。

人を巻き込むためには、自分に自信もつとともに、状況の変化に対する感度や人の話を聞く度量も必要。自己否定をおそれず、必要とあれば昨日までの成功体験を捨てられる経営者、ということです。そんな起業家を支援したいし、そうした経営者と一緒に挑戦していきたいですね。

自分のこれまでの歩みを振り返っても、人から情報をもらったり、人から刺激を受けたりすることが転機や自己成長のきっかけになってきたと思います。起業すると、どうしても自分より優秀な人にもまれ、想いを分かち合い、叱咤してくれる人と出会う機会が少なくなるだけに、自ら積極的にそうした刺激を求めていくことも、経営者には必要だと思いますね。

その点、シェアオフィスやコワーキグスペースは、すごく便利な環境だと思います。ぼくも起業後はオフィスビルを借りるなど固定したオフィスはもたず、いくつかのシェアオフィスやコワーキングスペースを利用しています。すると、思わぬ人との出会いがあり、人脈が広がるだけではなく、新しい出会いから新たな事業や仕事が生まれこともあります。固定オフィスではえがたい経験だと思います。

やっぱり、リソースが限られているベンチャーやスタートアップが成長するためには、ナレッジやリテラシーを社外の人たちや仲間と言えるような起業家たちとわかちあうほうが、いまの時代は速いと思います。競争だけではなく、共に価値を生み出していく「共創」の考え方を取り入れる柔軟な経営が、これからの時代は主流になっていくんじゃないかな。そんな気がします。

――なるほど。もうすぐ仙台にも新しいシェアオフィス・コワーキングスペースの『enspace』がオープンします。

本格的なシェアオフィス・コワーキングスペースができることで、仙台のベンチャー企業、スタートアップ企業が活気づくことを期待したいですね。
会社が小さいときは、オフィスを借りるよりも、こうしたスペースを活用していろんな人とふれあいながら、情報交換したほうがいい。実際問題、コストも安いですしね。

近い将来、『enspace』を効果的に使う仙台のベンチャー企業やスタートアップ企業をキープレイヤーズが支援する。そんなカタチになったらいいですね。