キーマンたちを徹底取材「仙台×IT」という胎動

enspaceを立ち上げたエンライズの吾郷代表

株式会社エンライズコーポレーション
代表取締役CEO 吾郷 克洋

広島県生まれ。地元の大学を卒業後、東京のベンチャー企業に入社。その後、IT系ベンチャー企業の立ち上げに参画し、2012年にはITインフラサービスに特化した株式会社エンライズコーポレーションを設立。設立から約6年間で国内5カ所と米国シリコンバレーにもサテライトオフィスを設ける。エンジニア人財の「採用」と「育成」に積極的に取組み、新規事業のチャレンジなど、人と事業の成長に力を注いでいる。

多くの「ヒト・モノ・カネ・情報」が集まる世界有数の経済都市である東京は、大手・ベンチャー問わず数多くの企業が集積しており、新たなビジネスを創出し、成長させていくには、国内の他都市よりも有利な環境が整っているといえます。そのような中、あるベンチャー企業が仙台にシェアオフィス・コワーキングスペースをつくる試みを始動させました。なぜ、東京ではなく地方なのか?このプロジェクトを進めるエンライズコーポレーション代表の吾郷さんにお聞きました。

多様な人や企業が出会える「場」がイノベーションを生む

――地方にフォーカスしたシェアオフィス・コワーキングスペース「enspace(エンスペース)」ですが、プロジェクトの構想が生まれた経緯を聞かせてください。

以前から、どの地方にも共通して感じていたのは、新しいビジネスを生み出し、成長させる「場」が少ないということでした。たとえば、東京でエンジニアとしてのキャリアを築き、その後に故郷で新しい事業を興そうとしても、後押ししてくれる「場」がない。それでは、やる気のある優秀な人財や新しいビジネスの芽が育ちにくく、非常にもったいないと思っていました。

こうした課題を解決するには、そうした「場」を誰かが創るしかない。去年、シリコンバレーを訪れた際に、そこでの働き方やビジネスの創り方が自分の中にあった課題意識と結びつき、シェアオフィス・コワーキングスペース事業であるenspaceの構想が生まれました。

――シリコンバレーのどういったところがヒントになったのですか?

Apple創業者のスティーブ・ジョブズやFacebook創業者のマーク・ザッカーバーグなど、世界に革新を起こしたシリコンバレーの起業家たちの多くは、自宅のガレージや学校の寮など、お世辞にも恵まれた環境とはいえない場所からスタートしています。そこからなぜあんなに急成長し、成功できたのかが疑問でしたが、シリコンバレーのベンチャー企業が集まるシェアオフィスに自社の拠点を持つことにより、その答えに辿り着きました。

それは、ベンチャー企業を生み、育てる環境、いわゆる「ベンチャー・エコシステム(ビジネス生態系)」が整っていることで、人や事業を急速に成長させていくのだということです。そして、それらの企業が成功することにより「お金・人財・知識」がエコシステムに還元され、イノベーションを起こす土壌がより熟成され、更なる成長の連鎖を生みます。

その環境で活躍している多くのビジネスパーソン達は、世界を変えたい、良くしたいという高い志を持ち、ビジョンを共有しながらも意気投合するだけではなく、時には激しい議論を戦わせていました。加えて、様々な課題を解決するため、仮説を立て検証し、IT技術を最大限活用し、練りに練られたグローバルサービスが創出されていく事を目の当たりにしたのです。

こうしたシリコンバレーの空気に接したことで、様々な企業や人が集まり、これまでにない価値のモノが生みだされる「場」を創るのが私の使命だと感じ、enspaceの構想へと繋がりました。

“5つのen”と“3つのKAKERU”で地方創生にチャレンジしたい

――そうしたenspaceプロジェクトを始動させる場所として、なぜ仙台を選ばれたのでしょうか?

最初に考えたのは、私の生まれ故郷である広島でした。しかし、色々な人たちと話しているうちに「より社会課題の解決に直結する場所でやりたい」と考えるようになりました。日本の地方都市はどこも課題が山積みですが、最大の課題は東日本大震災からの復興なのではないかと。あれこれ考えた結果、enspaceの第一弾は仙台であるべきと確信しました。

現在、多くの企業が東京をヘッドオフィスとして、地方や海外にサテライトオフィスを置いています。本質的なサテライトオフィスの機能(目的)は、全国展開の足がかりに各地に拠点を持つ事だけではななく、「採用促進」にとっても重要なんです。エンライズでは、全国5都市にサテライトオフィスを置いて地域の人を積極的に採用しています。採用した人たちが東京でキャリアを積み、将来的にはそれぞれの故郷に戻って、一緒にサービス創りをしていきたいと考えています。

仙台は、日本全国のシェアオフィス・コワーキングスペースを見学していた際に訪れた場所の一つで、「何かを生み出そう」という空気感を地域全体から特に強く感じましたね。それは、シリコンバレーの空気感と非常に近いものでした。また、当初の目的でもあった「採用促進」の動きが鈍かったのが東北エリアだったこともあり、東北の中心地・仙台にオフィスを置く事を決めました。

――既存のシェアオフィスではなく、自分達でつくろうというのはなぜですか?

仙台で同じ想いや取り組みをしている場所を探してみましたが、地域のコミュニティに特化したものが多く、シリコンバレーで見てきたような、互いが刺激し合う空気感と、新しいサービスやマネーを生み出し、発信していくような場所はありませんでした。であれば…自分たちで創ろう!と。

――enspaceの魅力とはなんでしょうか?

環境が全てを変えます。人が育つ環境と学んでいる環境、人が出会う環境、これが一番大切だと思っています。刺激をし合えて、気づきがあり、学びがあり、人生をかけてビジネスを発展させるような空気感を得られる環境がenspaceです。これが最大の魅力ですね。

enspaceという環境がなければ生まれなかったサービスも出てくるかも知れないですし、自分たちのサービスに関しても、最初に設計しているコンテンツのままではなく、環境に応じて変化・進化していくつもりです。そこも魅力であり特典の一つだと思います。

サービスコンテンツはもちろんですが、「シェアリング」というのをしっかりと混ぜ込んだ環境を用意しようと思っています。今、色んなものに関する「シェア」があって、「持たない」という世の中の風潮ができています。スピード感のあるベンチャー企業を例にすると、ステージに応じて1年2年でオフィスを変えていきます。

起業にあたっての初期費用はシェアリングをすることでかなり抑えられます。だから、次のステージへ行く前の、ファーストステップの場所でもあると思っています。

人が多く集まる場所というのを利用して、色んな使い方や提案もできると思っています。サテライトオフィスが販路拡大のための拠点であり、採用のための拠点であり、地域の人たちの営業所としての拠点という役割もあると言いましたが、これだって決めつけず、「人が集まる場所」という魅力をどう生かすかは一つ一つの企業が持っているサービスによって利用用途も関わり方も変わると思います。

――「IT企業として」仙台にどう関わっていくことになるのでしょうか?

シェアオフィス・コワーキングスペースは世の中に増えてきていますが、それを運営している会社の性質によって「狙い」が違うと思います。たとえば人材派遣会社ならフリーで活躍しているひとの人材確保、不動産なら物件としての価値向上など。ただ、何が大切というところは共通で、「人が集まる場所」ということです。人が集まる所に価値を求めて、そこに自分たちの事業をのせていくのが、シェアオフィス・コワーキングスペースをつくる運営会社の狙いであり、やり方だと思っています。

私達は「IT企業」としてシェアオフィス・コワーキングスペースを創るということが、重要だと考えています。ITやテクノロジーというものが何なのかというと、テクノロジーが進化していく中で、生活が便利になっていったり、仕事が効率化されたり、情報を得ることで世界が感じたり、新しいビジネスが生まれたり、ビジネスを促進させる為の身近なツールの1つではないかと思うんです。

enspaceは「地方創生×IT」で、さまざまな社会課題の解決に向き合います。それは人がいてはじめて実現するもので、いろんな会社や人が集まる場を用意することで、「ここに行けば新しいものに出会える」「ここから何かが生まれるかもしれない」という期待感を醸成し、人、企業、情報が引き寄せられる場所にしたいですね。

自分たちがIT企業としてできることって、「○○×IT」というテーマで、東北エリアにおける地域の課題や、そこで頑張っている様々な業種・業態の人たちに対して、「ITを取り入れることによって効率化を測れたよ」「課題の改善ができるよ」「こんな風にすれば良くなるんじゃないか」という提案ができるというのが私達の魅力ではないかと。そのためにシェアオフィス、コワーキングというのをベースに人が集まる場所をつくって、その中でITやテクノロジーを使いやすく身近に感じてもらうことが必要だと思っています。

微力ですがenspace事業を進めることで復興に貢献したいし、(東北を盛り上げることに貢献していきたいし)ここから日本を代表する企業や起業家が生まれてほしい。そうすることで「地方創生」の新しいモデルが生まれるはずです。国家戦略特区の指定地域であり、仙台市は企業誘致に力を入れているため助成金が充実しているなど、起業しやすい環境、東京の企業が地方拠点を設置しやすい環境でもあります。

東日本大震災以降、事業継続性の観点から拠点を分散させようとする動きも企業にあります。そこで浮き彫りになるのが人です。移転先で人を採用しようとする場合、特にエンジニアに関しては絶対数そのものが少ない。それなら、地方都市でもエンジニアが育つ仕組みを仕掛けていく事も使命だと思っています。

――地方創生は大きなテーマです。具体的にどんな戦略を考えているのですか?

どんな分野でも「○○×IT」で事業を加速・拡張・効率化できる環境を創るのが、私達の根本的な考え方です。enspaceの場合は「地方創生×IT」がキーワードになりますが、ベースになるのは私達、エンライズが大切にしてきた5つの「en」です。

お客さまに価値を提供し、「ありがとう」を“対価(円=en)”でお預かりすること。ベンチャーとして実績が少ない中でも“応援(en)”してくれた方々との“ご縁(en)”。起業当初から“エン(en)ジニア”の力を活用し、可能性を最大限に高めてきたこと。どうせやるなら、楽しく、仲間とともに宴(en)をするように進めていきたい。

この5つの「en」と、様々な分野とのコラボレーションを表す「✕(KAKERU)」=「懸ける」「駆ける」「描ける」という「3のKAKERU」をあわせて、事業を磨き、育て、加速させるコミュニティを創造したい。これがenspaceに込めた私達の想いです。

「熱い志」をぶつけ合うことが社会を変革するチカラになる

――新しい価値が生まれる“場創り”のあり方を追求しているのですね。

人間、一人でできることなんてたかが知れています。スタートアップの企業もフリーランスも、思い描く未来をカタチにしていくには、志やビジョンを共有できる仲間が絶対に必要です。極論すれば「何をやるか」よりも「誰とやるか」。シリコンバレーで感じたイノベーティブな空気感を地方に創造することで、やる気ある若者にチャンスを与えたい。人創りの拠点となる場を提供したい。そんな思いがあります。

仙台でいろんな人と対話をすると、地元に対する愛着、復興を盛り上げたいという想いは非常に熱い。enspaceを舞台に、その熱さをぶつけ合い、人と人の出会いから化学反応が起こることで、社会を変革する価値が生まれる。そんな期待をしています。

――ところで、御社の事業について教えてください。

メインになるのはITインフラに特化したソリューション事業です。サーバやネットワークなど、大手企業のシステム基盤を設計・構築・保守運用する業務を中心に、技術支援型のSES(システムエンジニアリングサービス)を提供しています。

他に人財の育成や研修に関わるHRバリュー事業、新規事業開発・インキュベーションを行うベンチャーバンク事業。この3つをコアビジネスとして展開しています。

――設立か約6年で急成長を遂げています。その理由を聞かせてください。

「人」をビジネスの核に据えているからです。技術を重視するのはもちろん、ビジネス力に長けたエンジニアを「技術タレント」として育成したい。テクノロジーを追究しながら、技術とビジネスをどう結び付けるか、という視点を持てるような人財教育を行なっています。その象徴の一つが、「enrise Academy(エンライズアカデミー)」です。

――どのようなアカデミーなのですか?

2013年にスタートさせた人財育成プログラムで、当社が運営するITエンジニアの育成機関です。最初は2ヵ月の研修期間の間で資格取得など基礎的な力をつけてもらい、3ヵ月目から実務の研修に入ります。勉強している間は給与も支給し、希望者は寮に入ることも可能です。現場で責任ある仕事を担う前に、アカデミーでエンジニアとしての技術やビジネススキルを修得することで、本当の意味で即戦力として充実した仕事をすることができると考え、アカデミーを発足させました。

――ベンチャー企業には「育てる」よりも、成長ステージに合わせて「即戦力を採用する」と考えるところが多いと思います。

スピードと競争原理の視点では一理あります。ですが私の場合、起業の時点から世の中に必要されるサービスを「仲間とともに創りたい」という想いがありました。

全国から若い人を採用し、技術やビジネスのノウハウを教え、ビジョンを共有しながら同じ価値観で仕事ができる仲間を創る。そのためには、サービスやプロダクトありきではなく、人創りと、その背景にある環境、場創りが大切なのです。

enspaceは正直、私にとっても大きな賭け。でも、やるに値する大きな意義のあるチャレンジだと思っています。仙台で成功させ、それを東北、そして全国に展開することで地方創生につなげていきたい。何が起こるのか、生まれるのか、私自身もワクワクしています。