enspaceの建築デザイナーの塚本さん
株式会社 4D GROUNDWORK
代表取締役 CEO 塚本 光輝(つかもと こうき)
住宅建築をメイン事業とされている株式会社4D GROUNDWORの代表取締役 塚本光輝さん。
エンライズコーポレーションの代表取締役吾郷が、塚本さん自身がデザインされたオフィスを見てすぐに仙台シェアオフィスのデザインをオファー。
今回行った仙台シェアオフィスのデザインと、起業家が集うコワーキングスペースのデザインについてお聞きしました。
プライドを持って楽しく働けるオフィスデザインとは
――働く場所や環境など、塚本さんの建築に対するお話をお聞かせいただきたいと思います。
またenspaceに対して、仙台のシェアオフィス・コワーキングスペースの建築デザインをやろうと思ったきっかけなどを聞かせ下さい。
私はずっと住宅建築をメインで16年やってきました。
住む人のライフスタイルや未来に描く暮らしを本気でお聞きして、本気でデザインしてきました。
一番最初に作ったオフィスは、人のものじゃなくて埼玉に2005年(12年前)に作ったに自分のオフィスが原点です。
埼玉のヘッドオフィスだったStudy Style時代のオフィスが自分で設計したスタートでした。その時に考えたのは、適度な集中力とコミュニケーションの取りやすさでした。あとは長時間座ってても疲れない椅子など。
あとは全体の環境とか空間をどうしてあげたら皆が自分のオフィスにプライドを持って、毎日会社に来るのが楽しみになってくれるかとか。
一方で職場ですから、ある程度のモラルとか規律っていうものがあるわけですが、そのギリギリのところで楽しさをどう表現するか。あまり遊びすぎちゃってもよくないし、固すぎちゃってもダメ。
そんな考えでデザインしたこのオフィスを見に来た人たちが、自分たちのオフィス(ChatWorkの山本さんもそうだったんですけど)もこういう事務所にしてあげたいというお話をいただく様になりました。
元々オフィスデザインをメイン事業でやっていたわけじゃありませんが、自分のオフィスを一生懸命従業員のためにという思いで作ってたら、それが意外と外部の方にも共感いただけたっていう感じですかね。
――そういったオフィスを作られて、働く人達のモチベーションとか、クリエイティブ性が増したとか、前の事務所と今の事務所の違いなどはありましたか?
最初お金がなかったんで、プレハブ小屋の家賃20万円のオフィスだったんですけど、その時は採用に凄く苦労しました。
そこで一番驚いたのが、『こんな環境で働いてみたいと。』すごい優秀な人が採用しやすくなったっていう事でした。「新建築に僕掲載されたことあるんです」みたいな僕らの業界でいったら「えーっ!」みたいな人たちが、面接に来てくれるような会社になれたっていう副産物はありましたが、全然意図していませんでした。
だから自分の経験上「良い環境」「良いオフィス」をある程度真剣に考えて作ってあげることが、優秀な人が集まるという事がわかりました。住まいもそうだし、オフィス環境もそうですけど、やっぱりそういうふうにちゃんと思いを持ってデザインされた空間で仕事したり暮らしたりっていうのは、発想力も上がるし、プライドが持てますよね。
全国で類を見ないシェアオフィスは空間を贅沢に使ったデザインに
――enspaceをどのようなデザインにしてきたいと考えてますか。
ひと昔前までは、何となく雑誌メディアでがんがん紹介される、Appleとか、Airbnb(エアビー)さんの本社とか、Googleとか、なんかああいうオフィスこそがIT系とか、正直ちょっとやりすぎかなって思います。フェラーリも素敵なのはわかるんですが気恥ずかしさがあるじゃないですか。
これから新しい時代を作ろうとする20代30代の若い働き手世代の方たちが、そういう空間を本当に望むかっていうと、そうじゃなくなってる気がしています。時代背景的に新しいものをお金かけてかっこ良くするよりも、古い建物を大切にセンス良く使っている方が、むしろ共感されるのかなって思います。
昔みたいに蛍光灯のライン照明がバーンと並ぶオフィスよりも、お家の延長線上みたいな職場が増えてますよね。IT系の職場なんかも、畳部屋とかこたつ置くとかよくあるじゃないですか。
程よい緊張感のなかで、お家にいるようなくつろぎ感とリラックス感を与えてあげるのは大事だと思います。
今回はそういう意味で、仙台のenspaceさんは、ラウンジを充実させてあげたり、最高のプレゼンを演出するプレゼンテーションルームもあって、あのオフィスの中もきんきんのモダンなデザインというよりは、ちょっと温かみのある木毛セメント板とか、コンクリートなどをこだわって選びましたね。素材はなるべく、安価なものでかつ、本来だったら下地に使うようなものを上手に仕上げ材として、素敵に見せつつも、緊張感の出ない空間で、面白みもセンスもあると思ってもらえるような、面白いシェアオフィスになってると思います。
全国のシェアオフィスを見て回った中では、ここまでアイディアを盛り込んでるものはなかったし、完成した暁にお越しくださった方が、何も説明しなくてもおそらく何かを感じ取ってくれるものになっていると思います。僕が作ってきたオフィスは、いちいち説明しなくても、そこの空間に入った瞬間に何かを感じてもらえる様になってるんだと思います。
今回の3階、4階のシェアオフィスのスペースも、二人ワンセットくらいの空間を最小単位として作ってます。その中でも、大きな開口枠があって開放感がありつつも中に入った時に落ち着く空間であってほしいという思いから、上が抜けてて、ドアも抜けてて、ドアはガラス張りにしようと思ってます。
――今回のこのエンスペースは、日本全国で多分一番じゃないでしょうか?
7階建てのビルまるごと全部をシェアオフィスにするという構想で、ここまで時間をかけて考えて作られているは、規模的にも全国で一番だと思います。
起業家が事務所を探す時、空いてるオフィスなんかいっぱいあるわけじゃないですか。マンションの一室でもいいわけですから。その中であえてシェアオフィスを借りるという意味を、ちゃんと考えてあげなきゃいけないと思っています。そこにenspaceの名前に象徴されるような、色んな縁をね。そういう機能をデザインするという事も必要なので、それ以外のプレゼンテーションスペースだったラウンジスペースだったり、いずれはどこかに泊まれるスペースだったり、会員制レストランラウンジみたいなものが生まれていくんでしょうから。
ここまで考えて要素を盛り込んでいるものは今まで数える程しかありません。正直言ってほとんどが効率的に、利回り計算に代表されるような余分なスペースが少ないオフィスでした。
こういうことを考えてなかったら、わざわざお金にならないプレゼンテーションスペースなんか作らないで、シェアオフィスとして貸しちゃえばよかったのにという考えになりますからね。
見る人が見たら「余計なスペース」をenspaceにいっぱい作りましたから、起業家がここをオフィスとして使えるのは大きなポイントだと思っています。
会社も自分自身も成長したい熱い人が集まって、やがては世界企業に
――enspaceが大きな発信力になっていけば、多分周りの環境も大きく変わっていくと思いますが、どんな場所になっていくと思いますか?
例えば目黒通りっていうと、僕らの印象としては、本当に古いアンティーク、ヴィンテージの家具屋さんが並んでる通りみたいな。何かが生まれると、それが派生していくと思います。
そして、熱い人たちが集まることによって何かが生まれるっていう流れがありますよね。今はそれらが色んな所に分散してるので、集めるっていうだけでも価値があると思っています。
「ただ場所を貸すので働いてください」「事務所かっこいいですよ」っていうものではない事はわかってほしいですね。
今回僕はデザインを頑張りましたが、目に見えるデザイン以外に、そこでどんな人がどんな思いで関わってきているかみたいな思いをちゃんとenspaceから発信してほしいですね。
会社の成長だけじゃなくて、自分も成長したいっていう人たちが集まれるような、そんな環境はすごい熱いパワーを生みますよね。
勇気を与える場であってほしいですよね。
プラグアンドプレイとシリコンバレーで5年くらい戦ってた山本さんが講演で仰ってましたが、全員が大ぼら吹きで、でもそれを100%信じて、戦って世界中から集まってきて、そこから世界企業生まれてくるみたいな。
そういう環境が日本にたしかに無いと思ったからenspaceになったと思うんです。
――個の力じゃ弱いですから、そういう人たちが集まる場所というのは大切なんでしょうね。
個性を応援するってことにもなってるんでしょう。
多分家もオフィスも、その会社の、その人なりの個性を出してあげるというか。
全てが同じようなものではなくて、もしかしてそれが今の日本のその個性の弱さにつながってるのかもしれないですね。
今はOAフロアとか、なんとかヒルズに代表されるようなすごいオフィスもいっぱいある中で、あえて築36年のビルでこういうデザインを目指したわけですから。一つのモデルケースになってほしいです。
また、こういったものが主要都市ごとにどんどんできて、お互いに兄弟の様に相乗効果を発揮して、日本の未来を拓こうとする活気ある、本気で大ぼらを吹く若者があふれるようなオフィスになってほしいです。
少なくとも僕は、自分がスタートアップだったらenspaceを借りたいと思えるような思いでデザインしましたからね。