企業のIPOで仙台、そして東北を元気にしたい

株式会社東京証券取引所 宇壽山さん

株式会社東京証券取引所
上場推進部 課長 宇壽山 図南(うずやま となみ)

1974年 宮城県登米市生まれ。1997年に株式会社東京証券取引所入社。2002年から2007年まで、上場審査部で新規上場申請会社の審査業務に従事。2012年6月より現職。現在は新規株式公開(IPO)の支援業務に従事。2017年11月の七十七銀行、東北大学及び東証との3社による連携協定締結をはじめ、地域金融機関と東証との連携プロジェクトリーダーとして主体的に関わる。1997年 上智大学経済学部卒業。2010年 一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 修士課程(MBA)修了。

「なんとかして、東北で企業のIPO(新規株式公開)を増やしたい」――。こう語るのは、東京証券取引所で企業のIPO支援にたずさわり、自身も宮城県出身の宇壽山さん。全国でIPOが増加傾向にあるなか、東北地方ではここ4年間、東証に上場する企業が出ていないといいます。しかし、仙台では「起業で街を盛り上げよう」という機運の高まりも感じているそうです。東証が仙台における企業のIPOを促進するために2017年11月に七十七銀行、東北大学と締結した基本協定の内容や、仙台に秘められた可能性について、宇壽山さんに聞いてみました。

IPOの「空白エリア」

――まず、東証での宇壽山さんの仕事内容を教えてください。

2012年から現在の部署で企業の上場を促進するプロモーション業務を行っています。特に2017年からは、東証と地域金融機関との連携のプロジェクトリーダーとしてかかわっています。

全国の地域金融機関と協力し、各地域のIPOの促進などを推し進めています。

企業が上場すれば、その企業だけでなく、地域金融機関にもメリットが生まれます。企業が上場して資金調達を行い、知名度や信用度が上がれば、より多くのサービスが提供されたり、より多くの商品が販売されるようになりますよね。そうしてその企業の業績や業容が拡大すれば、新たに地域の雇用が創出され、事業拡大に伴って地域金融機関もさらに貸出が増えていく。このようにして、地域企業の上場を通じて地域経済の発展につなげていこうというのがこのプロジェクトの趣旨です。

東証は、2017年7月以降、ほくほくフィナンシャルグループの北陸銀行及び北海道銀行を皮切りに、四国の大手地銀4行、京都銀行など、現在では11行及び1大学と基本協定を締結しました。東北エリアでは、2017年11月に宮城県の七十七銀行、東北大学との3者による基本協定を最初に締結しました。東証が国内の金融機関とこのような協定を締結するのは、この一連のプロジェクトが初めてなんです。

――こうした「初めて」の取り組みをこの約1年間で推進しているのはなぜでしょう。

地方企業のIPOを増やしてくという課題が背景にあります。

というのも、過去10年における全国のIPO件数を見ると、リーマン・ショック翌年である2009年の19社を底に徐々に増加傾向にあり、2014年から2018年までは80~90社程度で推移しています。

しかし、IPOした企業を地域別に見ると、東京の企業が大半を占めています。2018年ですと、全国でIPOした98社のうち、地方企業は31社と3分の1程度です。今後、年間のIPO件数をこの水準で継続していこうとすると、東京の企業を増やすには限界があります。そのため、ポテンシャルのある東京以外の地域の有望企業のIPOを促していくのがわれわれのミッションなのです。

――これまで地方企業のIPOは増えているのでしょうか。
はい。地方でのIPOも増加傾向にあり、ここ4年間は30社程度で推移しています。これからはさらに増えていくとみています。ただし、東北エリアに限っていうと、2014年にIPOした企業を最後に、1社も上場していません。全国的に見ると唯一の「空白エリア」になっているんです。私自身、宮城県の出身なので、「なんとかしなきゃいけない」と特に感じています。

上場の心理的ハードルを下げたい

――東北地方からIPOする企業があまり出ないのではなぜでしょう。

IPOに積極的な地域と、そうでない地域の違いは、「IPOに対して感じる心理的なハードルの高さの違い」だと思っています。東京ですと比較的、時価総額が数十億円規模というベンチャー企業でも、成長ステージで勢いをつけて一気に上場して、さらに成長している事例が多いんですよね。一方で東北エリアは、もともと上場している企業が周りに多くないこともあり、IPOに対する心理的なハードルが結構高いのではないかと感じています。

そこで、私たちがこのエリアで「上場は皆さんが思っているほどハードルが高いものではないんですよ。むしろ上場はメリットがあるんです」という情報発信をしていくことが大切なのです。東証が、知名度、信用度、資金調達力の向上といった上場のメリットや、上場に際して具体的にどんな準備をすればよいかといった情報を積極的に発信していくことで、「上場」という目に見えないものに対する心理的なハードルはある程度、下げることができると思っています。

東証と七十七銀行、東北大学の3者では、基本協定にもとづき、まさにこうした狙いでさまざまな取り組みを行っています。

七十七銀行と東北大学はもともと産学連携を通じて地域経済の活性化をめざす協定を2007年に交わしていました。七十七銀行と協定締結の協議を進めていくなかで、「この地域をさらに活性化したい」という熱い思いをもった、七十七銀行の私と同世代のご担当の方から、「この産学連携に東証がくわわることで、“企業が上場してさらに成長する”というストーリーも描きながら、取り組みを強化できるのではないか」と、非常にアグレッシブなご提案をいただいたんです。東北大学も交え、東証市場を活用した支援の枠組みをつくるという提案内容でした。東証と金融機関、大学の3者が協定を結ぶのもこれが初めてなんですよ。

――七十七銀行、東北大学と一緒に具体的にどのような活動を行っているんですか。

たとえば、セミナーなどのイベントの開催。ここ最近、仙台市が中心となって約1ヵ月間にわたり開催された「SENDAI Entrepreneur Week(仙台起業家週間)」では、3者の主催でIPOに関するセミナーを開催しました。2018年2月には、東証マザーズに上場を果たされた株式会社マネーフォワードの社長の辻庸介さんと、東証ジャスダックスタンダード市場に上場を果たされた株式会社ほぼ日の取締役CFO(当時)の篠田真貴子さんを仙台にお招きし、それぞれの視点から上場体験談やIPOのメリットなどを語ってもらいました。このセミナーは今後も継続してやっていきたいと思います。

このほか、七十七銀行と連携して、IPOに対する疑問点や懸念事項の解消を図り、IPOのモチベーションを向上させるため、企業への個別訪問も行っています。七十七銀行が日頃おつきあいしている企業のなかから、IPOに関心があったり、IPOの可能性が高そうな企業をピックアップし、私たちと一緒に訪問して説明をするのです。

東北大学との連携では、社会人などを対象にしたアントレプレナー育成事業に関連した授業で東証が講師を行うなど、様々な施策に取り組んでいます。将来、IPOをめざす可能性がある層に対しても、積極的に情報発信していくためです。

――実際に仙台でこうした活動を行ってみて、現場の盛り上がり感はいかがでしょう。
IPOについては、まだまだそのメリットなどの情報発信を続けていく必要がありますが、「起業」という観点では、数年前の福岡市のような状況が、いま仙台で起こっていると実感しています。私が九州エリアの上場促進を担当していた数年前、福岡市はちょうど高島宗一郎市長が先頭に立って「起業でまちを活性化させよう」というすごい熱気で盛り上がっていました。いまの仙台は、そのときの雰囲気にすごく似ているんです。

城下町の仙台は老舗企業が多いのですが、一方でこうした起業ムーブメントの盛り上がりによって、最近では大学発ベンチャーをはじめ若い方の動きが目立っているように感じます。

――仙台市も、「日本一起業しやすいまち」を目指してさまざまな施策を行っていますね。

本当にそう思います。現在、全国的に見て、仙台市は福岡市、神戸市と並んで起業促進に積極的な自治体のひとつだと思っています。これを一種のムーブメントで終わらせないように、ぜひ仙台市にはこの取り組みを継続してほしいですね。

仙台市の取り組みは、さまざまなイベントを仙台だけでなく東京で開催し、地元企業と首都圏の大企業や投資家とのネットワーキングを行ったり、近隣の自治体を巻き込んで東北地方一丸となって取り組んでいらっしゃいます。非常に積極的な姿勢を感じ、大変素晴らしいと思います。

また行政だけでなく、民間企業の間でも、さまざまなベンチャー起業のイベントや交流会が開催され、大規模なコワーキングスペースがオープンするなど、「仙台でベンチャーを盛り上げよう」という機運が高まっていますよね。たとえば、コワーキングスペースができれば、情報の共有・交換ができて、お互い切磋琢磨していく場が増えることになります。スタートアップやベンチャー企業が互いに刺激しあえるよい環境ができてきたと思います。

福岡市では、こうしたムーブメントが立ち上がって数年経ってのち、IPOを果たした企業が出てきたので、「仙台もこれからだ」と期待しています。

大切なのは「憧れ」となる会社をつくること

――地域経済を活性化していくうえで、仙台がもつ魅力とはなんでしょう。

東北最大の都市、そして学生のまちであることから、若い方の人口が多いのが魅力ではないでしょうか。こうした若い人口をいかにこの地域の経済発展に取り込むかがポイントになると思います。仙台は東京へのアクセスもいいですし、ほかの都市と比べて都市の規模やインフラの面でも大きな潜在的な魅力があると思っています。

官民による起業促進の取り組みが今後も継続すれば、起業件数はどんどん増えていくでしょう。ただし、こうしてスタートアップやベンチャー企業が生まれるだけでなく、このなかからどれだけの企業が事業規模を拡大していけるかという点も重要になってきます。

若い方にとって「ああいう社長になりたい」「あの会社みたいに自分の会社も大きくしたい」と、憧れの対象となり、モデルになる企業が1社でも多く誕生してほしいですね。若い方の雇用の受け皿になるという観点からも、企業がさらなる成長することは必要不可欠です。

――最後に、今後のビジョンを聞かせてください。

この基本協定では数値的な目標は設けていませんが、 1社でも早く、1社でも多く、この東北エリアからIPOする企業を輩出できるようにしたいですね。

東日本大震災から7 年以上が経ちました。全国から多くの方が復興支援にたずさわってくださり、東北エリアは少しずつ立ち上がってきました。しかし本当の意味での復興は、この地域の経済がさらに活性化していくことだと私は思います。その核となる仙台市は、これから新しい企業が本格的に成長するステージに入っていくと信じています。そして、成長企業が本当にIPOを考えるようになるのはそこからです。

東証としては、企業と資本市場の距離感を縮めていけるよう、今後も基本協定にもとづく取り組みを継続し、仙台、そして東北の復興に貢献していきたいです。

最後に個人的な思いをお伝えすると、東証に入って、まさか自分の生まれ育った地域のために腰を据えて仕事ができるとは思っていませんでした。東証の仕事でこの地域に貢献できる機会をえられて非常にうれしく思いますし、継続的にこのエリアのIPO支援にかかわって、少しでも地域の発展に貢献できるように頑張っていきたいと思います。