株式会社七十七銀行 常務取締役 髙橋さん
株式会社七十七銀行
常務取締役
髙橋 猛(たかはし たけし)
1981年、東北大学経済学部を卒業し、七十七銀行に入行。
この間、石巻支店長、本店営業部長などを歴任し、2016年に常務取締役に就任。
――奥羽山脈の豊かな水系がもたらす田畑の実り、金華山沖という世界有数の漁場、芭蕉も息を呑んだ自然美、東北と関東をつなぐ要衝―。
天の恵みが豊かで地の利に優れる仙台は江戸の昔から今日まで東北一帯の“経済首都”として機能し続けています。
一方で、これまでベンチャー育成の実績があまりなかったのも事実。
そうしたなか、仙台に本店をおき、東北エリアの金融機能を担う七十七銀行が起業家やベンチャー支援に積極的に乗り出しています。
その想いや支援内容などを同行常務取締役の髙橋さんに取材しました。
時代の変化に対応するため、新たな取組みを始めた名門銀行のチャレンジです。
「挑戦者」を支援する多様なメニュー
――七十七銀行といえば、バブル崩壊後にメガバンクが軒並み公的資金注入を受ける中、健全経営を貫いてきた優良銀行です。そうした御行が現在、起業家育成やベンチャー支援に力を入れている理由をお聞かせください。
新たな産業や事業の創出という目的を達成するためです。人口減少時代の到来によって、経済の新しいグランドデザインをどう描くかは、地方のみならず国全体の大きな課題となっています。そうした時代を切り拓くカギは、新規事業や新産業の創出に挑戦する起業家やベンチャー企業への支援ではないでしょうか。
――具体的なサポートメニューの内容を教えてください。
機運を盛り上げるための起業イベントの開催から実際のファイナンスまで、広範で網羅的なサポートを提供しています。
具体的には、創業計画の作成や創業関連補助金の申請などをお手伝いする創業・第二創業支援のほか、当行の「七十七ニュービジネス支援資金」などを通じた資金供給支援があります。また最近では、当行グループのファンド運営会社である七十七キャピタル株式会社と組成した「77ニュービジネスファンド」を通じた資本性資金の供給も行っています。
イベント関連では、「SENDAI for Startups!」、「石巻市創業ビジネスグランプリ」などへの協賛のほか、地域経済における女性活躍推進の機運醸成に向け、日本政策投資銀行と共同で「女性活躍・起業応援シンポジウム in SENDAI」を開催しました。
――ただ、銀行経営の側面から言うと、震災で大きな打撃を受けたとはいえ、既存取引先の復興需要への対応が急がれる中、新規融資先の開拓に位置づけられる起業家支援やベンチャー支援の優先度は、それほど高くないんじゃないかと感じます。実際のところ、どうなんですか。
正直に申し上げると、以前は起業家支援、ベンチャー支援と言っても、あまりピンとこなかったのは事実ですね。それだけ仙台、宮城というマーケットは恵まれていたんですよ。百年以上続く老舗企業や有数の売上高を誇る地場企業が複数存在し、東京へのアクセスも新幹線で最速1時間30分程度です。経済の波、景気の波、社会の流れの波に乗っていれば安泰。そんな時代が続き、創業支援は不得手でした。
しかし、3.11の震災で、そうした意識が一変しました。震災が起きたとき、私は審査部長を務めており、その1年後には被災地のなかでもとりわけ大きな被害を受けた石巻に異動し、復旧の現場に身を置きました。その時の経験が、銀行の果たすべき役割を強く意識し、銀行が起業家支援やベンチャー支援を行うことの本質的な価値に気づくきっかけとなりました。
「起業家支援」でも貫く想い
――どのような気づきがあったんですか。
震災直後、現地の状況が把握できるまでにはずいぶんと時間がかかりましたが、被害状況が徐々にわかってくるにつれ、絶望的な気持ちになっていきました。人的被害も経済的被害も想像をはるかに超えるものだったからです。取引先企業のほとんどが事業活動の停止を余儀なくされ、再開の目途もまったく立たない状況でした。その時、銀行というのは、お取引いただいている取引先企業あっての存在だという当たり前の事実を改めて強烈に意識しました。
被害状況を把握した後は、腹をくくりました。事業再開に向けて立ち上がろうとしている企業や経営者には、銀行としてできることはすべてやろうと。たとえば壊滅的な被害を受け、事業再開に向けて動き出すとき、大きな壁が立ちはだかります。とにかく資金がなければ話にならないからです。そこで私は審査部長として、事業の再開に向けて動き出した企業からの融資申込については、基本的に全て対応するよう、全行員に指示しました。
――通常は担保や事業計画書、返済計画書などをチェックしますよね。
はい。災害対応だったからこそできたことかもしれませんが、とにかく融資の可否判断の大前提となる地域そのものの復旧が果たされない限り、なにも展望は開けない。ですから、そのために銀行としてできることは基本的になんでもやろう。そう思ったんです。
震災から7年を経たいま、被災地には必死の努力で自身の事業を再開し、地域経済の復興のためにさらなる成長を目指している企業や経営者がたくさん存在します。われわれがそのお役に立ったのだとしたら、これほどうれしいことはありません。
こうした経験を通じて、既存の企業維持だけではなく、企業や事業の立ち上げとその成長支援こそが銀行の使命である。そんな認識が強くなりました。その文脈上に起業家育成やベンチャー支援もわれわれのミッションとして存在しています。これは私ひとりの個人的な感慨ではなく、七十七銀行全体を貫いている想いです
「連携」が新しい価値を創りだす
――具体的な取り組みのほかに、起業家育成・ベンチャー支援における七十七銀行らしさがあれば聞かせてください。
連携だと思います。仙台では産学官にファイナンスを意味する“金”をくわえた「産学官金」を合言葉に、ビジネスアイデアが生まれて事業化されるまで、切れ目のない新規事業サポートや起業家育成、ベンチャー支援を行っています。
当行も“産”を意味する民間企業はもちろん、宮城県や仙台市などの各行政機関や東北大学などと連携し、事業立ち上げ段階からの支援や、それより以前のビジネスアイデアのブラッシュアップのお手伝いもしています。
昨年11月には東北大学および東京証券取引所と当行の3者連携による、ベンチャー企業および地域企業の成長支援や起業家人材育成の推進などに関する基本協定も締結しました。これにより、地域企業のさらなる成長を支援し、震災からの創造的復興に取り組む東北地域の経済活性化に貢献していく考えです。ちなみに、大学ならびに東証の3者による地域経済発展に向けた連携の取組みは全国初のケースです。
最近、仙台市内でシェアオフィスやコワーキングスペースを設置する動きが活発化していますが、これも連携という同じ文脈でとらえることができます。
――どういうことでしょう。
さまざま想いをもった起業家や起業を志す人たちが集まり、アイデアをぶつけ合い、触発し合うところから、かつて誰も見たことがないような新しい産業が生まれるのだと思います。シェアオフィスやコワーキングスペースはこうした連携を生み出し、起業成功の確率を高めるための場としてとても有効であると思います。
われわれも支援メニューとして明記していること以外の連携を進めていきたい。たとえば起業家やベンチャーの経営者にとって、事業に関わる資金の管理は非常に悩ましい問題のひとつと言えるでしょう。そうした分野についての困りごとや悩みごとについても是非、気軽に相談してもらいたいですね。
販路開拓についても力になれれば、と思っています。銀行はたくさんの企業と取引させていただいておりますので、企業と企業の橋渡し、いわゆる「ビジネスマッチング」は得意としています。また、東京に本社を構える企業が東北・仙台への拠点としてシェアオフィスを利用するケースも増えてくると思いますが、そうした場合もご相談いただければ、ビジネスマッチングの機会を提供したり、関係機関との橋渡しを行ったりすることも可能だと思います。
「新しいロールモデル」を目指す
――今後のビジョンを聞かせてください。
国内市場の縮小を意味する人口減少というかつてない事態は、この国にとって大きな転機。維持ではなく、新しいものを創出し成長を目指していこうという志向が危機を打開するカギです。
東北エリアはかねて過疎化が進行している地域で、ある意味、国が抱える課題の先進地です。この地で起業家育成やベンチャー支援の成功モデルをつくることができれば、その成果を国全体に還元できるかもしれません。事業創出や起業家育成、ベンチャー支援の取組みを通じて地域活性化のみならず経済の新しいあり方のロールモデルになりたい。そんな想いでこれからもチャレンジを続けていきます。