東北大学 理事 産学連携担当&スタートアップガレージ インタビュー

一般社団法人MAKOTOの横田さん

一般社団法人MAKOTO ディレクター
横田 洋一(よこた よういち)

1959年生まれ。株式会社富士通に入社し、エンタープライズ・ソリューション部門部長などを歴任。2011年にEmotional Brains株式会社を設立し、代表取締役社長兼CEOに就任。クラウドファンディングと3Dプリント技術を活用した3次元製作プラットフォーム「OKUYUKI」などのインターネットサービスを開発運営。2017年5月に同社をバイアウトし、一般社団法人MAKOTOに参画、ディレクターに就任。東北大学スタートアップガレージの立ち上げに参画し、メンターとして常駐。グロービス経営大学院経営学修士(MBA)。

東北大学の“ベンチャー企業100社創出”プロジェクトの拠点、東北大学スタートアップガレージ(以下、TUSG)で常駐メンターを務める横田さん(一般社団法人MAKOTOのディレクター)は、大企業を辞めてベンチャー企業を興した起業家。TUSGの役割や起業家支援に懸ける熱い想いなどを聞きました。

起業家にとって東京は生ぬるい

――日本の場合、なんでもかんでも大都市に一極集中しますよね。

そうですね。文化、情報、経済、技術、マーケット、それにベンチャーや起業家も。大都市、なかでも東京にはなんでもかんでも一極集中していますよね。

――はっきり言って、地方で起業するのは、不利な戦いになるんじゃないですか?

それはまったく無いですね。ほんの半年くらいまで(註:取材は2018年1月)私は起業家として東京で活動し、TUSGの設立にともない仙台に引っ越してきましたが、東京にいなくても世界を変えられる、ということを、つくづく実感しています。強がりを言っているわけではなく、東京にいても真似っ子が多くておもしろくない。起業家にとって東京はぬるい。みんな同じ行動しているので逆にイノベーティブなものは生まれにくい、と感じています。

――ほ、ほぅ。目が点になりそうなお話ですけど、どういうことですか?

東京、なかでも渋谷は起業したい人や起業家にとって恵まれた環境である、と思っていますよ。カフェでもレストランでも、どこに行っても起業家と出会うことができ、VCやエンジェルに弁護士、会計士など、起業を支援してくれる人とすぐに連絡も取れる。それなりのエコ・システムができあがっています。いわば、なんでもそろっている“大企業みたいな場所”なんです。起業すると「起業してるんですか? カッコイイ」と言われるし(笑)。

でも、イノベーションって、そうした恵まれた環境から生まれるんでしょうか?というのが私の持論。環境を変え、視点を変えることで違う目線が生まれ、そこからイノベーティブなアイデアが生まれる。東京じゃないから、東北だからという理由で起業しにくい、不利だということはまったく無くて、イノベーションを創るには、逆にとても有利な環境だと思いますね。

ただ、起業家や起業を支援する人たちなどが出会う場がこれまで無かった。多様なアイデアは多様な人との出会い、交流から生まれ、磨かれます。そこだけが不利な点でした。だったら、起業家とさまざまな人たちが出会える場をつくればいいだけ。TUSGは仙台におけるその先駆けです。

最近、シェアオフィスやコワーキングスペースをつくる動きが仙台でも出てきましたが、起業という志を同じくする人たちが集まれる場として、シェアオフィスやコワーキングスペースはとても有意義だと思います。起業家や起業したい人たちが行き交ってザワザワしたなかで刺激を受け、誰も思いつかなかったようなイノベーションが生まれやすいと思います。

Be Crazy

――起業することと起業して成功することは別のことだと思います。横田さんは大企業を飛び出し、自ら起業してエグジットに成功しましたが、自信の経験を通じて得られた起業のコツ、起業して成功するコツを聞かせてください。

クレイジーになることです。私が起業した頃はまだ世間の理解が進んでいなくて、「失敗するぞ」「大企業を辞めるなんてもったいない」と、さんざん言われました。イノベーションを起こしたい起業家はそんな他人の批判や「無理だ」「不可能だ」という声にさらされても、やり抜く力強さが不可欠ですね。それを他人はクレイジーだと言うでしょう。だったらクレイジーになって、最後までやり抜くことです。

東北の人たちはまじめでおとなしいと言われますが「生まれ育った故郷を良くしたい」「東北を良くしたい」「日本を良くしたい」といった胸の内の情熱はとても熱い。そうした秘めたるチャレンジ精神を応援し、刺激し、磨き上げて解き放つのが私のミッションなんです。

先日、ビジネスプランを相談するため、東北大学の学生がここに訪ねてきました。いろいろ話を聞いて「それで、あなたが目指しているもの、変革したいと思っているものは、何なの?」と聞くと、小さな声で自分の理想を語ってくれました。日本人は自分の理想を打ち明けることを恥ずかしがる人が多く、とくに東北の人は「本当にやりたいことはこれです」と自分の想いをぶつけることが苦手です。

でも、そうした自分が想う理想こそ、社会を変えるイノベーションの始まり。自分がやりださないと世界は変えられません。ビジネスプランが無骨でもいいんです。それは起業の経験者である私たちが磨きこみますから。それより、本当にやりたいこと、自分の理想をぶつけに来てほしいですね。

勇気を持てばいいんです。

――今後のビジョンを聞かせてください。

TUSGでは起業塾、ピッチイベント、起業相談、立ち上げ支援などを行っています。こうした活動を通じて、多くのファーストペンギン(※注)を育てたいですね。

※ファーストペンギン:集団で行動するペンギンの群れのなかから先頭を切って天敵に襲われるリスクがある海へ、魚を求めて最初に飛びこむペンギンのこと。転じて、アメリカでは恐怖や迷いに打ち勝ち、初めてのことに挑戦する勇敢なベンチャー精神の持ち主のことを指す。

エグジットした後、幸いなことに多くの人から声をかけられ、渋谷のベンチャーで働く、イスラエルに行くなどの選択肢がありました。そのなかで、私にとっていちばんクレイジーだったのが東北で働くことでした。社会の変革に挑戦する起業家という名前のクレイジーな仲間たちを、この地でたくさん増やしたいと思っています。